『小田原衆所領役帳』には他国衆の油井領に「東郡 粟飯原四ケ村」があり、この「粟飯原」が近世以降の「相原」にあたる。

寛政12年(1800)『文禄年中より度々御検地並神社仏閣畑屋敷控帳』※1には以下のように書かれている。
文禄年中より度々御検地並神社仏閣畑屋敷控帳 相模国 東郡 相原郷の儀は、只今、武州 相原村と 1村に有りの候処、文禄3年(1594) 御検地御改の節、川境に相成、これによりて相原村 両村 (相州 相原村・武州 相原村の両村) に相成申候 |
原文: 相模国東郡相原郷之儀は、只今武州相原村と一村ニ有之候処、文禄三年御検地御改之節川境ニ相成、依之相原村両村ニ相成申候 |
近代はじめの『多摩郡相原村誌写』※2にも以下のように書かれている。
多摩郡相原村誌写① 北方多摩の横山嶺上を以て武相の国界たりしが、天正18年(1590) 徳川氏の版図に入り、文禄元年(1592) 検地するに当り、高座川 (又は田倉川) を以て国界とせしより、河北を武蔵 多摩郡に属し、相原村と称す |
原文: 北方多摩の横山嶺上を以て武相の国界たりしが天正十八庚寅徳川氏の版図に入り文禄甲子元年検地するに当り高座川 (又は田倉川) を以て国界とせしより河北を武蔵多摩郡に属し相原村と称す |
多摩郡相原村誌写② 元亀年間(1570~1573) 八王子同郡元八王子城主・北条氏照の領地に属す。天正18年(1590) 豊臣氏東征して、北条氏および関東の豪族皆滅す。此の時、徳川氏関東に移り、府を江戸城に開くに及んで、其の臣・彦坂小刑部をして此の地を管理せしむ。文禄3年(1594) 同人検地して |
原文: 元亀年間八王子同郡元八王子城主北条氏照の領地に属す天正十八年庚寅豊臣氏東征して北条氏及関東の豪族皆滅す此の時徳川氏関佐に移り府を江戸城に関くに及んで其の臣彦坂小刑部をして此の地を管理せしむ文禄三甲子年同人検地して |
対する高座郡 相原村の明治12年(1879)『相原村皇国地誌』※3でも同じで、以下のように書かれている。
相原村皇国地誌① 我が北境なる横山 *中略* の嶺頭、すなわち相武国界たる。然るに天正18年(1590) 徳川氏の版図に入りて、文禄3年(1594) 検地するにあたり、山南の我が地を流れし高座川を以て国界とせしより、川北なるを武州 相原(粟飯原の転にして、或いは合原又間原とも書しと) 村とし、川を境川と改め |
原文: 我北境ナル横山 *中略* ノ嶺頭乃チ相武国界タル、然ルニ天正十八年庚寅徳川氏ノ版図ニ入テ、文禄三年甲午検地スルニ方リ、山南ノ我地ヲ流レシ高座川ヲ以テ国界トセシヨリ、川北ナルヲ武州相原(粟飯原ノ転ニシテ或ハ合原又間原トモ書シト)村トシ、川を境川ト改メ |
相原村皇国地誌② 往昔詳らかならず、鎌倉府の頃は渋谷重国、これを領し、足利氏に至り、上杉定正の版図に入しならん。永正・大永年間(1504~1528) 北条家 由井領 (小田原分限役帳に拠る、武州 滝山城主・大石源左衛門) たり、天正18年(1590) 徳川氏に代わり、文禄元年(1592) 其の臣・彦坂小刑部管知し、文禄3年(1594) 村検地して |
原文: 往昔詳ナラス、鎌倉府ノ頃ハ渋谷重国之ヲ領シ、足利氏ニ至リ上杉定正ノ版図ニ入シナラン、永正大永年間北条家由井領 (小田原分限役帳ニ拠ル、武州滝山城主大石源左衛門) タリ、天正十八年庚寅徳川氏ニ代り、文禄元年壬辰其臣彦坂小刑部管知シ、同三年村検地シテ |
つまり天正18年(1590) 徳川家康の関東入国とその後の知行割を前提に、文禄3年(1594) の検地を契機として、川筋を境界に分割された。「粟飯原」「会原」「藍原」「合原」「間原」の表記も最終的に「相原」へ落ち着いたようだ。なお、文禄元年(1592)・文禄3年(1594) の混乱は支配開始・検地の混同によるものとみられる。
天正18年(1590) 前後の支配では、直前は北条氏照 (大石源三・油井源三) の油井領、直後は代官・彦坂小刑部 (元正) の支配で共通している※4。したがって何らかの境界認識が反映されたものではなく、「粟飯原四ケ村」とあるように村々が中世郷として広域的に把握されていたものが、支配の都合上、当地より下流と同様に高座川 (現在の境川) によって分割されたと考えられる。
| ^ ※1: | 『相模原市史 第5巻』(1965) 所収、pp.97-101。 |
| ^ ※2: | 『町田市史史料集 第2集』(1971) 所収、#52・cc.178-180。郡村誌 (皇国地誌) 向けに提出されたものの草稿と考えられ、干支の混乱はそれ (草稿であるため) による。 |
| ^ ※3: | 草稿『相模原市史 第6巻 (1968)』 所収、pp.21-26。 |
| ^ ※4: | 『町田市史 上巻』(1974)・『相模原市史 第1巻 (1964)』・『同 第2巻』 (1967)。 |