28.1.4. 下総台地

下総国を特徴づける地形に「台地」と「」がある。台地は平野・盆地にあって一段高くなっている平坦な土地を指し、基本的にこうしんせい (こうせきせい) に形成された洪積層からなっている。一方で谷津は、その台地が長い期間にわたって少しずつ侵食されてできた浅い谷状の地形をいう。台地のうち現在の千葉県北部の一体を下総台地 (または両総台地) と呼ぶ。以下は標高56メートル以下を強調して示した地形図である (標高56メートル以上と0メートル以下の分解能はない)。

Fig.076: 標高59メートル以下を強調した地形図

谷津は縄文海進の進行によって溺れ谷となったあと、その谷底には堆積によって平坦な低湿地が形成された。このような低湿地は保水性が高い上、湧水によって安定的な水利を得られるため、古くから水田 (谷津田) に利用されてきた※1。また谷津の傾斜面には同じ理由により樹木が繁茂することから薪炭材を得られ、さらにその上の台地面は草苅場として利用できた。平地における典型的な「里山」である。

しかし台地面のうち利用されたのはこのような傾斜面付近に限られ、そこから遠くなるほど不毛の原野と認識された。水利が悪く稲作には不向きだからで、山地・丘陵地から遠く孤立した下総台地の場合、これが顕著である。そしてこうして生じた空白地が下総・上総国界として漠然と認識された。

谷津・谷戸・谷地

「谷津」と同一視される言葉に「」と「」がある。筆者の感覚では、谷津は下総台地のように孤立した標高の低い台地にみられ、谷底がほとんど平坦なものであり、谷戸は武蔵・相模のような後背に丘陵地・山地を持ち、標高も高い台地にみられ、勾配があってしばしば階段状になるものである。谷地はもっと漠然と窪地も含めて言葉であって、地域的には東北・北海道に多いように思える。もっともすべて「谷」の一文字で表現可能で (『やつ』『やと』『やち』)、広くいえば『』の一種である。自然発生的に生まれ、生活・文化に強く結びついてきた言葉である以上、そもそも明確な区別はないのかもしれない。なお鎌倉における「やつ」は丘陵地の「」であり、ここでいう谷津とは異なる地形である。

^ ※1: ただし湧水は水温が低く日照も限られ、また地形上の制約も大きい。このためすべて水田にできるわけではなく生産性も低い。