ここでは、江戸期 (江戸時代) に全国規模で作成された国絵図のうち、大和国絵図について詳細をまとめています。一覧は末尾にあります。

概要

大和国は、五畿七道のうち五畿に属する国である。国立公文書館所蔵の『天保大和国絵図』は紅葉山文庫旧蔵・勘定所旧蔵の両方が現存し、前者 (紅葉山文庫旧蔵) が『天保国絵図大和国』(#764267) としてオンライン公開されている。

Fig.862 天保大和国絵図 (国立公文書館 所蔵)
Fig.862 天保大和国絵図 (国立公文書館 所蔵)

日本六十余州国々切絵図 大和国

日本六十余州国々切絵図 (余州図) は、江戸期 (江戸時代) に全国規模で作成されたと考えられている国絵図の 2番目、寛永年間(1624~1644) に作成された寛永国絵図の略図・縮図と考えられている国絵図である。余州図は五畿七道 68国のすべてが秋田県公文書館に現存し、「日本六十余州国々切絵図」の通称も同館のものによる。『日本六十余州国々切絵図 大和国』は文字どおりに大和国の余州図であり、『日本六十余州国々切絵図 大和国』(#15731) として秋田県公文書館デジタルアーカイブでオンライン公開され、大きさは東西 101cm × 南北 149cm である。

ほかに『大和国[畿内図]』京都大学 貴重資料デジタルアーカイブで公開され、大きさは東西 116cm × 南北 154cm、『〔大和国絵図〕』(T1-81)岡山大学 絵図公開データベースシステム で公開され、大きさは東西 117.5cm × 南北 164.6cm である。

正保大和国絵図 (ライデン大学図書館所蔵)

正保大和国絵図』は、江戸期 (江戸時代) に全国規模で作成された国絵図の 3番目、正保年間(1644~1648) から慶安年間(1648~1652) にかけて作成された正保国絵図のうち大和国のものである。ライデン大学図書館 (Universitaire Bibliotheken Leidens)では『大和国絵図 (Yamato no kuni ezu)』が現存・オンライン公開されており、これが『正保大和国絵図』と推定される。本図の大きさは東西 220cm × 南北 366cm である※1

Fig.771 正保大和国絵図 (ライデン大学図書館 Universitaire Bibliotheken Leidens 所蔵)
Fig.771 正保大和国絵図 (ライデン大学図書館 Universitaire Bibliotheken Leidens 所蔵)

本図の国郡高 (国郡単位の石高) を『正保大和国絵図』と推定される蓬左文庫所蔵の『大和国図』と比較すれば、以下に示すように整合する。

国郡高の一覧 (ライデン大学図書館所蔵)
本図蓬左文庫※2
そえかみ※3
55,941.2410石※4
55,941.2410石
そえしも
34,941.4060石※5
34,941.4060石
平群へぐり
29,170.8470石※6
29,170.8470石
やま※7
47,468.4430石※8
47,468.4430石
しき※9
22,425.9550石※10
22,425.9550石
しきじょう※11
26,393.2670石※12
26,393.2670石
とおいち※13
34,690.9796石※14
34,690.9796石
広瀬郡
15,937.7680石※15
15,937.7680石
かつ※16
37,546.6330石※17
37,546.6330石
たかいち※18
40,786.6840石※19
40,786.6840石
忍海おしみ
5,565.3420石※20
5,565.3420石
かつじょう※21
28,053.1400石※22
28,053.1400石
宇知郡
16,241.7190石※23
16,241.7290石
吉野郡
32,969.1480石※24
32,969.1480石
31,235.0470石※25
31,235.0470石
総計
459,280.6246石※26
459,380.6246石

「寛永十六年大和国郷帳」(『江戸初期の大和国郷帳』を参照) の国高は 444,056.092石、『元禄大和国絵図』の国高は 500,497.38068石※27なので、明暦の大火後に再提出された際に現状が反映されたものとみられる。『礒永』も記載された支配関係から同様の判断をしている。

注釈

正保大和国絵図 (その他)

『正保大和国絵図』については、大和国絵図全般とともに『江戸幕府撰大和国絵図の現存状況と管見した図の正確について』(礒永、『奈良県立民族博物館紀要 第16巻』(1999) 所収)※1に詳しい。

これによれば、『正保大和国絵図』は、ライデン大学図書館所蔵のほかに、名古屋市蓬左文庫所蔵の『大和国図』新発田市立図書館所蔵の『山城国・伊賀国絵図』、およびライデン大学図書館 (Universitaire Bibliotheken Leidens)所蔵の『大和国絵図 (Yamato no kuni ezu)』が現存する。これらのうち新発田市立図書館所蔵の『山城国・伊賀国絵図』は、史料名に反して大和国絵図であり、蓬左文庫の『大和国図』と「まったく同じ」という。『新発田市立図書館所蔵の国絵図等の調査』(1984)※2によれば、本図にはすでに失われている部分があるという。なお本図の現況については情報を得られない。

これらとは別に奈良女子大学付属図書館所蔵の国絵図として『大和国絵図』が存在し、『礒永』によれば『正保大和国絵図』が基になっているものの、何度か写しを繰り返した結果、不明瞭な部分や更新・簡略化された部分が含まれるという。なお本図の現況についても情報を得られない。

注釈

元禄大和国絵図 (国立公文書館所蔵)

元禄大和国絵図』は、江戸期 (江戸時代) に全国規模で作成された国絵図の 4番目、元禄年間(1688~1704) に作成された元禄国絵図のうち大和国のものである。元禄国絵図は国立公文書館に多く現存する。本図もその一部であり、『元禄国絵図大和国』(#764190)として現存・オンライン公開されている。

Fig.860 元禄大和国絵図 (国立公文書館 所蔵)
Fig.860 元禄大和国絵図 (国立公文書館 所蔵)

国立公文書館所蔵の元禄国絵図のうち、下総常陸日向薩摩大隅は正本、五畿 (大和山城河内和泉摂津) と近江丹波播磨は写本であり (本稿の対象ではない、五畿七道 68国以外を除く)、したがって本図は写本である。『元禄近江国絵図』と同様、背景となる自然描写は簡略化されているとみられ、『天保大和国絵図』に比較して山陵と森林がかなり少ない。大きさは東西 245cm × 南北 442cm で、余白部分 (畾紙) の目録奥書には元禄15年(1702) 2月の日付 (『元禄十五壬午年二月』) と本多能登守・植村右衛門佐の名前が記されている。

本図の北部 (上部) は完全には描かれていない。また圧縮された余白 (畾紙) 部分に隣国・方角表示 (『山城国』『北』) や国境記載が窮屈に収められている。

元禄大和国絵図 (奈良県立図書情報館所蔵)

奈良県立図書情報館には『元禄大和国絵図』として『大和国絵図』が現存し、まほろばデジタルライブリーでオンライン公開されている。

Fig.861 元禄大和国絵図 (奈良県立図書情報館 所蔵 ・ まほろばデジタルライブリー公開)
Fig.861 元禄大和国絵図 (奈良県立図書情報館 所蔵・まほろばデジタルライブリー公開)

本図は、大きさが東西 379.0cm × 南北586.5cmで、国立公文書館所蔵の写本より大きく『天保大和国絵図』とほぼ同じである。背景となる自然描写が完全に描かれ、そのほかの記載事項に不足があるようには見えない。余白部分 (畾紙) の目録には元禄12年(1699) の日付 (『元禄十弐巳卯年』) と本多能登守・植村右衛門佐の名前が記されている。

本図と同じように元禄12年(1699) の日付があって、かつ来歴が明確な元禄国絵図には、ほかに『元禄陸奥国仙台領絵図』がある。これは、いったん提出したものの修正を求められ、返却された国絵図である。本図 (奈良県立図書情報館 大和国絵図) も、その内容の精緻さから元禄12年(1699) 時点の正本と考えられ、その後返却されたものに付箋を貼って修正すべき箇所・内容を指示した状態にあるのだろう (最終版からいえば下絵図)。したがって、本図の解題では「本図は献上本ではないが、幕府撰の元禄大和国絵図の一つであることは間違いない」とされているものの、これは控えめな表現であり、重要度はより高いといえる。

本図は、画像データとしては 21,147× 28,360ピクセルと大きく、通常であれば十分な解像度を得られるサイズである。しかし分割撮影ではなく全体を 1回で撮影したもの、かつフィルム撮影したものとみられ、実質的な解像度は低く、村名の判読は難しい。またスキャナで取り込んだ際に混入したと思われる多数のチリ・ホコリが確認され、貴重な史料 (文化財) の魅力を損なっている。デジタル・分割撮影によって、高解像度・高品質の画像が公開されることが期待される。なお、解題中「己年」は「巳年」の誤りである。

天保大和国絵図

天保大和国絵図』は、江戸期に全国規模で作成された国絵図の最後、天保年間(1830~1844) に作成された天保国絵図のうち大和国のものである。冒頭で言及したとおり、『天保大和国絵図』は国立公文書館に紅葉山文庫旧蔵・勘定所旧蔵の両方が現存し、前者 (紅葉山文庫旧蔵) が(『天保国絵図大和国』(#764267) としてオンライン公開されている。

Fig.862 天保大和国絵図 (国立公文書館 所蔵)
Fig.862 天保大和国絵図 (国立公文書館 所蔵)

紅葉山文庫※1は江戸城内にあった、将軍の利用を原則とする書庫 (図書館) であり、勘定所は勘定奉行を長とする役所である。したがって紅葉山文庫旧蔵は保存と限定的な参照を目的に納められたもの、勘定所旧蔵は実務に供されたものとなるが、紅葉山文庫旧蔵も必要に応じて借用・参照されたようである※2

『天保大和国絵図』は大きさが東西 343cm × 南北 518cm で、目録の奥書部分には、全国一律に天保9年(1838) の日付 (『天保9年戊戌五月』) と明楽飛騨守・田口五郎左衛門・大沢主馬の名前が記されている。

注釈

松平乗命旧蔵

国立公文書館所蔵、松平乗命旧蔵の国絵図群 (通称『日本分国絵図』) には大和国のものが含まれ、現存する (#725034)。オンラインでは公開されていない。

この松平乗命旧蔵の国絵図群には、松平乗命から明治政府へ渡る前後 (明治5~6年(1872~1873))に、京都府が一式を借用して忠実に模写したものも存在し、京都府立京都学・歴彩館に現存、館古044: 国絵図という一群で管理されている。その『大和国絵図』もオンラインでは公開されていないが、目録は国立公文書館デジタルアーカイブよりもやや充実している。

写本の大きさは東西 116.5cm × 南北 187.3cmで※1、(松平乗命旧蔵としての) 原本の大きさも同様と考えられる。本図については、時期を含む国絵図としての性質を特定するための情報が含まれているのかどうかも含めて、詳細な情報を得られない。

注釈

一覧

江戸初期の大和国郷帳

江戸初期大和国郷帳の一覧
時期国高内容等
慶長10年(1605) 頃不明『大和郡山市史 本編』(1966)によれば、当時「桜井市三輪町出口橋北詰の喜多氏所蔵」、表題「大和国郷帳」、また寛永16年(1639) の日付があるといい、同書はこれを慶長10年(1605) 前後と推定する。おそらく次項と同系統。
同時期443,859.068石奈良県立図書館所蔵の文書群『庁内漫録』に含まれる『寛永七年高付』 (翻刻: 『奈良史料叢書 7』(2022))。『飛鳥京跡関係史料集 1 近世地誌篇』(1980)によれば「標書より古く関ケ原戦直後のもの」、『奈良文化論叢』(1967)によれば、同じ表題のものが当時「奈良市多門町玉井氏所蔵」で存在し、同書はこれを慶長8年(1603)~慶長12年(1607) と推定している。
元和元(1615) ~元和5年(1619)443,375.752石 (443,810.759石)『大和郡山市史 本編』(1966)によれば当時「高市郡曲川村堀家」に伝わっていたといい、元和2~4年(1616~1618) と推定されている。『飛鳥京跡関係史料集 1 近世地誌篇』(1980)所収の #3『寛永十年 大和国内惣高』は表紙の記載が「寛永拾弥生中写之 大和国内惣高 堀六兵衛 芳光持」で一致、元和3~5年(1617~1619) と推定されている。国高は『奈良文化論叢』(1967)による。括弧書きで併記されている数値の意味は不明 (注釈記号はあるものの、論文集収録の段階で漏れたか対応する説明がない)。同書は元和元~4年(1615~1618)と推定している。
寛永11年(1634) 11月 ~寛永13年(1636) 8月444,756.405石『明治大学刑事博物館資料 第3集 郷帳3』(1979)に翻刻され、内容時期の推定も同書による。国高の記載は「惣高合四拾四万四千七百五拾六石四斗五合」、奥書の日付は「寛文元年辛丑夏之日書之」。『尾張藩士茜部相嘉と「諸国郷帳」の成立』(『史料館研究紀要 26 』(1995) 所収)によれば、国文学研究資料館所蔵の文書群『尾張国名古屋西陣町茜部家文書』に含まれる『大和国郷帳』も 444,756.405石であることから同系統と考えられる。
寛永16年(1639)444,056.092石『奈良文化論叢』(1967)で「寛永十六年大和国郷帳」と呼ばれている郷帳。これに基づいて正保郷帳が作成されたのではないかと推定されている。「三輪町喜多氏所蔵」で元禄6年(1693) 写本。『桜井市史 史料編 上巻』(1981) 所収の『大和国郡郷記』は「金屋、喜多啓祐文書」で、奥書に「寛永十六卯年改帳也 元禄六癸酉年仲春書之写ス 和州大泉村 喜平次」とあって、年が一致し、所蔵者の姓・地名からも同一とみられる (桜井市編入以前の三輪村~三輪町~大三輪町に大字金屋が含まれる)。『飛鳥京跡関係史料集 1 近世地誌篇』(1980) 所収の #4『寛永十六年大和国郡郷帳』はこれと奥書が同一、翻刻されている部分は異なる。
寛文7年(1667)不明『大和郡山市史 本編』(1966)で言及されている郷帳、「天理図書館保井文庫文書」とあり、これは現在も変わらないものと思われる。『奈良市史 通史3』(1988) で言及のある 「大和国知行高并郡分帳」は同じものか。

変更履歴

内容

:

  • 外観とメニュー類をリニューアルした。

:

  • 日本六十余州国々切絵図の記事について、表題を『日本六十余州国々切絵図 大和国』に変更し、説明を整理した。
  • 『天保大和国絵図』について説明を整理した。

:

  • 『日本六十余州国々切絵図』の記事を追加した。
  • 松平乗命旧蔵(写) を一覧に追加し、松平乗命旧蔵とともに記事にまとめた。

:

  • 『元禄大和国絵図』の記事を若干追補した。
  • 『天保和泉国絵図』の記事を追加した。
  • 『正保大和国絵図』の記事をライデン大学図書館所蔵とそれ以外に分離し、それぞれ説明を整理した。
  • 『元禄大和国絵図』の記事を国立公文書館所蔵と奈良県立図書館所蔵に分離し、それぞれ説明を整理した。

:

  • 導入文を追加し、概要を追補した。

:

  • 『天保大和国絵図』について外観を示した。
  • 『元禄大和国絵図』(国立公文書館所蔵) を「正本」から「写本」に訂正し、また外観を示した。
  • 『元禄大和国絵図』(奈良県立図書情報館所蔵) を一覧に追加し、また外観を示した。
  • 『元禄大和国絵図』について記事にまとめた。

:

  • 『正保大和国絵図』の説明に追加検討の結果を反映し、既存のライデン大学図書館所蔵以外を一覧に追加した。

:

  • 構成を再整理し、概要を追加した。誤字・脱字を適宜修正した。
  • 同様に一覧表の備考に記載されていた記事を外に出して、表現などわかりづらいところを適宜、見直した。
  • 『正保大和国絵図』(ライデン大学図書館所蔵) について外観を示した。

:

  • 新規作成。